データアクセスオブジェクト (DAO) ========================= データアクセスオブジェクト (DAO) は、異なるデータベース管理システム (DBMS) 上に保存されたデータに接続するための包括的な API を提供します。 DAO を用いてデータにアクセスすることで、コードを変更せずに異なる DBMS を利用する事が可能になります Yii DAO は MySQL や PostgreSQL といった多くのポピュラーな DBMS への統一的なデータアクセスを提供する [PHP Data Objects (PDO)](http://php.net/manual/en/book.pdo.php) 拡張を用いて構築されています。 そのため、Yii DAO を利用するには、PDO 拡張と特定の PDO データベースドライバ (たとえば `PDO_MYSQL`) がインストールされている必要があります。 Yii DAO は、主に以下の 4 つのクラスから構成されています: - [CDbConnection]: データベースとの接続を表します。 - [CDbCommand]: データベースに対して実行する SQL 文を表します。 - [CDbDataReader]: クエリ結果セットからの後戻りしないストリームを表します。 - [CDbTransaction]: DB トランザクションを表します。 以下に、さまざまなシナリオでの Yii DAO の使用方法を紹介します。 データベース接続の確立 -------------------------------- データベース接続を確立させるには、[CDbConnection] のインスタンスを作成して active にします。 データソース名 (DSN) がデータベースに接続するために要求される情報を指定するために必要です。 おそらく username と password も接続を確立させるために必要でしょう。 接続を確立する際にエラーが起こると例外が発生します (たとえば、間違った DSN や無効な username/password)。 ~~~ [php] $connection=new CDbConnection($dsn,$username,$password); // 接続を確立する。try...catch で例外処理を行う事もできます $connection->active=true; ...... $connection->active=false; // 接続を閉じる ~~~ DSN のフォーマットは、使用する PDO データベースドライバに依存します。 一般的には、DSN はその PDO ドライバ名に続けてコロン、その後に、ドライバ個別の接続シンタックスを指定します。 詳細な情報は、[PDO documentation](http://www.php.net/manual/en/pdo.construct.php) を参照してください。 以下に、一般に用いられる DSN フォーマットのリストを示します: - SQLite: `sqlite:/path/to/dbfile` - MySQL/MariaDB: `mysql:host=localhost;dbname=testdb` - PostgreSQL: `pgsql:host=localhost;port=5432;dbname=testdb` - SQL Server: `mssql:host=localhost;dbname=testdb` - Oracle: `oci:dbname=//localhost:1521/testdb` [CDbConnection] は [CApplicationComponent] から拡張されているため、[アプリケーションコンポーネント](/doc/guide/basics.application#sec-4) として使用できます。 そうするには、[アプリケーション初期構成](/doc/guide/basics.application#sec-2) 内で `db` という名前 (もしくは他の名前) のアプリケーションコンポーネントを下記のように設定します。 ~~~ [php] array( ...... 'components'=>array( ...... 'db'=>array( 'class'=>'CDbConnection', 'connectionString'=>'mysql:host=localhost;dbname=testdb', 'username'=>'root', 'password'=>'password', 'emulatePrepare'=>true, // MySQL の設定によっては必要 ), ), ) ~~~ その後、[CDbConnection::autoConnect] 設定が false になっていない限り、すでに自動的にアクティブになっている `Yii::app()->db` を利用してDB 接続にアクセスできます。 このアプローチを使うと、単一の DB 接続をコード中の色々な場所で共有することができます。 SQL 文の実行 ------------------------ 一度データベース接続を確立すれば、[CDbCommand] を使用して SQL 文を実行できます。 まず、特定の SQL 文によって [CDbConnection::createCommand()] を呼び、[CDbCommand] のインスタンスを作成します: ~~~ [php] $connection=Yii::app()->db; // "db" 接続を構成したと仮定した場合 // もしくは、明示的に接続を作成してもよい // $connection=new CDbConnection($dsn,$username,$password); $command=$connection->createCommand($sql); // もし必要なら、SQL 文を下記のように更新できます: // $command->text=$newSQL; ~~~ SQL 文は、次の2つの方法のうちのいずれかで、[CDbCommand] によって実行されます: - [execute()|CDbCommand::execute]: `INSERT`, `UPDATE`, `DELETE` のような、非クエリ型の SQL 文を実行します。 成功した場合、SQL 文の実行によって影響された行数を返します。 - [query()|CDbCommand::query]: `SELECT` のような、データ行を返す SQL 文を実行します。 成功した場合、結果の行を読み出すことが出来る [CDbDataReader] インタンスが返されます。 便宜上、直接クエリ結果の行を返す一連の `queryXXX()` メソッドも実装されています。 SQL 文の実行中にエラーが発生した場合は、例外が発生します。 ~~~ [php] $rowCount=$command->execute(); // 非クエリ型 SQL を実行する $dataReader=$command->query(); // クエリ型 SQL を実行する $rows=$command->queryAll(); // クエリを実行して、結果の全行を返す $row=$command->queryRow(); // クエリを実行して、結果の最初の行を返す $column=$command->queryColumn(); // クエリを実行して、結果の最初の列を返す $value=$command->queryScalar(); // クエリを実行して、最初の行の最初の項目を返す ~~~ クエリ結果の取得 ---------------------- [CDbCommand::query()] により [CDbDataReader] インスタンスを生成した後に、[CDbDataReader::read()] を繰り返し呼ぶことで、結果データの行を取り出せます。 データを一行ずつ取り出すために、PHP の `foreach` 文の中で [CDbDataReader] を使用できます。 ~~~ [php] $dataReader=$command->query(); // false が返るまで、繰り返し read() を呼び出します while(($row=$dataReader->read())!==false) { ... } // foreach を用いてデータの全行を取り出します foreach($dataReader as $row) { ... } // 一つの配列として、一回で全行を取り出します $rows=$dataReader->readAll(); ~~~ > Note|注意: [query()|CDbCommand::query] と異なり、全ての `queryXXX()` メソッドは直接データを返します。 たとえば、[queryRow()|CDbCommand::queryRow] は、クエリ結果の最初の行を表現する配列を返します。 トランザクションの使用 ------------------ アプリケーションがいくつかのクエリを実行して、各クエリがデータベース中の情報を読み書きする場合は、クエリのどれかが実行されずに残る、という事が無いように確認することが重要です。 Yii の [CDbTransaction] インスタンスとして表されるトランザクションは、このような場合に開始できます: - トランザクションを開始する。 - 一つずつクエリを実行する。データベースへのどんな更新も外の世界には見えません。 - トランザクションをコミットする。処理が成功した場合、更新が適用されます。 - もしクエリのひとつが失敗した場合、全処理がロールバックされます。 上記のワークフローは次のコードを使用して実装できます: ~~~ [php] $transaction=$connection->beginTransaction(); try { $connection->createCommand($sql1)->execute(); $connection->createCommand($sql2)->execute(); //.... 他の SQL の実行 $transaction->commit(); } catch(Exception $e) // クエリの実行に失敗した場合、例外が発生します { $transaction->rollback(); } ~~~ パラメータのバインディング ------------------ [SQL インジェクション攻撃](http://ja.wikipedia.org/wiki/SQL%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%82%AF%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3) を避け、繰り返し使用される SQL 文の実行パフォーマンスを改善するために、SQL 文とオプションのパラメータプレースホルダを "準備 prepare" することが出来ます。 プレースホルダは、パラメータバインディングの過程で、実引数と置き換えられることになっています。 パラメータプレースホルダは、名前付き (ユニークなトークンとして表される) か、無名 (クエスチョンマークとして表わされる) かのどちらかを使えます。 [CDbCommand::bindParam()] か [CDbCommand::bindValue()] を呼び出す事で、これらのプレースホルダを実引数に置き換えます。 パラメータを引用符で囲む必要はありません。下層のデータベースドライバがその処理を行なってくれます。 パラメータバインディングは、SQL 文を実行する前に行われなければなりません。 ~~~ [php] // ":username" と ":email" の二つのプレースホルダをもつ SQL $sql="INSERT INTO tbl_user (username, email) VALUES(:username,:email)"; $command=$connection->createCommand($sql); // プレースホルダ ":username" を実際の username 値で置き換える $command->bindParam(":username",$username,PDO::PARAM_STR); // プレースホルダ ":email" を実際の email 値で置き換える $command->bindParam(":email",$email,PDO::PARAM_STR); $command->execute(); // 別のパラメータを使って別の行を INSERT する $command->bindParam(":username",$username2,PDO::PARAM_STR); $command->bindParam(":email",$email2,PDO::PARAM_STR); $command->execute(); ~~~ [bindParam()|CDbCommand::bindParam] メソッドと [bindValue()|CDbCommand::bindValue] メソッドは、とても似ています。 唯一の違いは、前者はパラメータにバインドするのに PHP 変数の参照を使い、後者は変数の値を使うということです。 大きなメモリブロックで表わされるデータをパラメータに指定する場合は、パフォーマンス的に前者の方法を利用する事を推奨します。 バインディングパラメータについての詳細については、[関連する PHP ドキュメント](http://www.php.net/manual/ja/pdostatement.bindparam.php) を参照してください。 カラムのバインディング --------------- クエリの結果を抽出 (フェッチ) する場合、カラムを PHP 変数にバインドすることで、一行抽出されるごとに、変数に最新のデータが自動的に入るようにする事ができます。 ~~~ [php] $sql="SELECT username, email FROM tbl_user"; $dataReader=$connection->createCommand($sql)->query(); // 第 1 のカラム (username) を $username 変数にバインドする $dataReader->bindColumn(1,$username); // 第 2 のカラム (email) を $email 変数にバインドする $dataReader->bindColumn(2,$email); while($dataReader->read()!==false) { // $username と $email には、現在の行の username と email の内容が入っています } ~~~ テーブルプレフィックスを使う ------------------ Yii はテーブルプレフィックスの使用について、統合的なサポートを提供しています。 テーブルプレフィックスとは、現在接続されているデータベースのテーブル名の前に付加されている文字列を意味します。 たいていは、共有ホスティング環境において使われます。複数のアプリケーションが単一のデータベースを共有しつつ、お互いを区別するために違うテーブルプレフィックスを使うという形です。 例えば、あるアプリケーションは `tbl_` をプレフィックスとして使い、他のアプリケーションは `yii_` を使うという具合です。 テーブルプレフィックスを使うためには、[CDbConnection::tablePrefix] プロパティを望みのテーブルプレフィックスに構成します。 そして、SQL 文においてテーブル名を指定するのに `{{TableName}}` という書式を使います。 ここで `TableName` はプレフィックスを除外したテーブル名を指します。 例えば、データベースが `tbl_user` という名前のテーブルを持っていて、`tbl_` がテーブルプレフィックスとして構成されている場合、ユーザに関するクエリのコードとして下記を使うことが出来ます。 ~~~ [php] $sql='SELECT * FROM {{user}}'; $users=$connection->createCommand($sql)->queryAll(); ~~~